とよさとっこのこうかんにっき

我々が統治する豊里において、誰であろうとこの領域には踏み込むことは許さぬ。ウホウウホウホウホ

はんぺんちくわぶ戦争紀 ~第15話 USB挿すとき大体上と下向き逆に挿す~

 

「“痛心誓言”を掛けられた最強の魔法使い?」たかしは興味が湧いた。

 

 

 

「それって、もしかしてリミッターを解除したってことですか?」みち子(本当は悪役)は期待に胸を膨らませて聞いた。

 

 

 

「そうよ。たかし、あなたのお父さんはね、いわゆる“技芽盛(ぎがもり)”とよばれる魔法使いだったのよ―――」

 

“痛心誓言”を掛けられ“零技芽(ぜろぎが)”になった者を解除する事をリミッター解除といい、リミッター解除をした者を“技芽盛”という。リミッターを解除すると、今まで使っていた本来の魔法が進化し、より強い魔法が使えるようになる。

 

「—――しかも、扱える魔法の数は10以上。魔法が複数使える人の事をなんていうか分かる?」よし子はたかしとみち子(本当は悪役)に聞く。

 

 

 

「俺だって10個以上使えるもんね!」たかしは鼻高々に言った。

 

 

 

「あんたは一回使ったらおなか壊すけどな!しかもそのあと何時間もトイレに引きこもり。って、お母さんの話聞きなさいよ!

それで、なんて言うんですか?」みち子(本当は悪役)はたかしがお尻からブツを漏らすところを幾度となく見てきた。

 

 

 

「“柄芸(ガラケー)”。こう呼ばれる者が何人かいるわ。村長もそう呼ばれる魔法使いの一人。―――」

 

“柄芸”とは、多種多様な複数の魔法を扱う者の事である。

 

 

 

「—――“柄芸”で“技芽盛”だなんて、今まで私が生きてきた中でもお父さんしか聞いたことが無いわ。」よし子は何故だか嬉しそうに話していた。

 

 

 

「なんだよ、俺の親父は正義のヒーローかなんかだったのか?世界が危機にさらされているかもって時にいったい何をしてんだよ。」たかしは熱がこもる。おしりに。

 

 

 

「たかし、あなたお父さんの事をどこまで覚えてる?」よし子はセンチメンタルに聞く。

 

 

 

「写真でしか見たことが無いって言ったろ。でもたしか、かなり太ってたよな。」たかしはお尻から異臭を放っていた。

 

 

 

「あなたのお父さんは、遠い昔この世界に魔法が作られた発祥の地である、おでん村からやってきた関取だったのよ。」よし子はシーザーサラダを作りながら話をつづけた。

 

 

 

「魔法が作られた?おでん村から?」みち子(本当は悪役)は血が騒ぐ。

 

 

 

「ええ、、、、、、。おでん村からやって来たというより“逃げてきた”っていう方が正しいかもね。」よし子はさらにバーニャカウダを作り始める。

 

 

 

「なんで?何から逃げて来たんだよ。ばばあ!」たかしはブツを漏らしたことを悟られないように強気で言葉を発した。お尻からの匂いも強烈だった。

 

 

 

「おそらくあなた達がこれから戦うことになるであろう、“青汁同好会”と呼ばれる組織よ。お父さんはね、青汁が大嫌いだったの。

おでん村では、“おでんのお供に青汁飲もう!”っていうスローガンがあるらしくて、お父さんは頑なに青汁を飲まなかったって、聞いたわ。

それに“青汁同好会”は世界征服を企む悪の組織だと言っていたわ、、、、、、、、。

そしてある日突然、お父さんは組織のリーダーに危険人物に認定され“痛心誓言”を掛けられ、私のいる村まで逃げてきたらしいわ。」よし子はコーヒーを淹れる。

 

 

 

「なんでわざわざ遠いこの村へ?」みち子(本当は悪役)は何となく聞いた。

 

 

 

「おでん村には昔からある言い伝えがあるらしくてね。」よし子は興味をそそる言い方をする。

 

 

 

「なんだよ言い伝えって!ばばあ!」たかしはまだ諦めていなかった。

 

 

 

「 『“我々二 対抗セシ ハンペン、数百年二 一度 我々ニ トッテ 絶望的ナ チカラデ コノ世ヲ 支配スル。

ハンペン ニハ ダンゴ作リノ 付キ人有リ。ソノ二人ガ マタ 手ヲ組ムノナラ 我々ハ 抗ウ術ハ ナイダロウ。』 」よし子はところどころ片言でいってリアリティを追求した。

 

 

 

「“はんぺん”と“団子作りの付き人”、、、、、、、、。」みち子(本当は悪役)はたかしの方を見る。

 

 

 

「過去何百年何度も、“はんぺん”は、おでん村のリーダーに戦いを挑んだみたいなんだけど、幾度となくおでん村のリーダー格の“ちくわぶ”筆頭に五人の部下により返り討ちにされたらしいわ。

“はんぺん”には時代によって様々な付き人がいたとも聞いたわ。

その中でも“ちくわぶ”から最も恐れられた付き人が“団子職人”の付き人、、、、、。」

よし子は買ってきたシーチキンサラダをテーブルに並べ始める。

 

 

 

「つまり親父は、“だんご屋の娘”である ばばあ に会うためにこの村まで来たってか?」たかしは半ば諦めていた。

 

 

 

「そうよ。それにお父さんはおでん村からいなくなった“はんぺん”の事が気になっていたの。

お父さんがこの村に来た時はすでに自身に掛けられた”痛心誓言”を解除して、様々な魔法を村の皆に見せて自慢していたわ。

あんなにすごい数の魔法を使うのに、『世界を救うのは自分じゃない』っていつも言っていたわ。」よし子はお父さんに出会いすぐに恋に落ち、たかしを身ごもったことを付け足した。

 

 

 

「すごい魔法使い様だったんだろ?それなら世界でもなんでも救えたんじゃねえの?」実は俺もお腹の中に身ごもっていて、、、、さっき、、、、、出した。と、たかし は付け加えた。

 

 

 

みち子(本当は悪役)とよし子は たかし を一回ずつバイオレンスした。

 

 

 

「『俺は”はんぺん”でも”だんご職人”でもない、選ばれし者じゃないんだ。世界を救うのは“はんぺん”と俺の子だ。』ってね。その時もうあんたはもう15歳だったわ。

そしてお父さんは“はんぺん”を探しに行く旅に出たの。」よし子はたかしの子育て奮闘記を書籍化しようとしたことを明かした。

 

 

 

「いや、俺の親父は15年も何してたんだよ。とっとと“はんぺん”探しに行けよ。」たかしのいう事は的を得ていた。

 

 

 

「それで、“はんぺん”は見つかったのですか?」みち子(本当は悪役)は手に汗握りながらよし子に聞く。

 

 

 

「ええ見つかったわ。でもそこで見たのは、かつて世界を陥れた悪の一族とは思えないくらいのやせ細った貧弱な村人たちしかいなかった。

その村は月に一度、おでん村からの使者が送られてきて、“良い青汁の元”を作らせるだけ作らせ奪い去っていたと聞くわ。」よし子は何やら悔しそうな顔をしていた。

 

 

 

「ひどい、、、、、、、、、」みち子(本当は悪役)も甘酸っぱい顔をしていた。

 

 

 

「こんな生活になったのはほんの百年ほど前らしいわ。

その前までは“はんぺん”は村全員が強い魔法を使い、おでん村に戦いを挑んだの。数百年に一度、この世をも破壊しうる魔法を持つ魔法使いが生まれる度に、あと一歩というところまでいったらしいわ。

あと一歩というところで、毎回その時の“はんぺん”の付き人がヘマを犯して負けたの。」よし子はポテトサラダを村長の部屋の冷蔵庫から出してきた。

 

 

 

「、、、、、、、、、、、、、、、。」みち子(本当は悪役)はなんだか急に不安になった。

 

 

 

「そしてそう、お父さんが“はんぺん”のいる村に行ったその時、ちょうど奴らがやって来たの。」よし子は手を震わせながら話す。

 

 

 

「“青汁同好会”、、、、、、、、、、。」みち子(本当は悪役)は青汁が嫌いになりそうだった。

 

 

 

「お父さんは強い魔法使いよ。その時に来たおでん村の使者はそんなに強くなかった。

けど、百年前から“はんぺん”達にはこの世に生まれてすぐに“痛心誓言”という呪いが掛けられ、村人みんなしょぼい魔法しか使えなくなってしまったの。だからお父さんは一人で戦っていたの。

おでん村の使者はその時300人ほどいて、さすがにお父さん一人では“はんぺん”の村人全員を守りながら戦うことはできなかった。

それでもお父さんは敵の半分以上を倒した。そしてその時お父さんは何か異変に気が付いたみたいなの。」よし子はご近所さんから貰った温野菜サラダをテーブルの真ん中に置いた。

 

 

 

「異変?」みち子(本当は悪役)はサラダだらけのテーブルにこの中でいち早く異変を感じていた。

 

 

 

「わざわざこんな大人数で村に来た理由は何か?それに何かおでん村の奴らは戦いに来たという感じではなかった。何かを探しているような、そんな感じがしたって。

それで、助けた村人に聞いたみたいなんだけど、

 

『いままでこんな大人数でこの村に来たことなんかない。狙いはきっとあの子だ。早くあの子を助けてあげてくれ。』

 

その話を聞いた途端、何やらおでん村の使者たちが騒いでいることに気付いてそこに行ってみると、彼らはこう言ったみたいだわ。

 

『古より伝わる伝説の宝具 “図魔法(すまほ)”だ!ほんとにこの村にありやがった!さっさとこの赤ん坊ごと連れて総帥に渡すぞ!』

 

お父さんは必死になってその赤ん坊を助け、その子の親を探していたけど、すでに亡き者となっていたみたいでね、その後も“はんぺん”の村人たちを逃がそうとしたみたいなんだけど、村人たちは泣きながら、

 

『俺たちの事はいいから、その子を助けてあげてくれ。その子は俺たちの希望なんだ。いつかきっと、あいつらを、、、、、、、』

 

それを聞いたお父さんは“はんぺん”の村人たちを助けられないことを悔やみながら、その赤ん坊一人だけ助けて、私たちの村まで連れて帰ってきたの。」よし子は臨場感あふれるように一人ひとり役に入り込んで話を進めた。

 

 

 

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、。」みち子(本当は悪役)はよし子の話に聞き入っていた。

 

 

 

「それで、そのあと親父はどうしたんだよ?」たかしは父親のその後が気になった。

 

 

 

「そのあと、何やらお父さんは村長に耳打ちしてこの村を出て行ったわ。その赤ん坊の事もその時ちょうど来ていた隣の村の預言者兼ベビーシッターの 数子さん っていう人に託していたわ。

それと私には、

 

『おでん村にある物があって、それがきっとたかし達に必要になるものだから。』

 

って、、、、、、、、あとこれを渡してきたわ。」よし子はフェイントをかけて、それをたかしに渡す。

 

 

 

「なんだよこれ。」たかしは白くて柔らかい三角形のそれを受け取ると。

 

 

 

「それは、、、、、、、、、“はんぺん”?」みち子(本当は悪役)は、初めてそれを見たのにもかかわらず、それがはんぺんだと気づいてしまった。

 

 

 

「そうよ、これは“はんぺん”という物よ。私もその時初めて見たけど、なにか禍々しいものを感じて、、、、今までずっと冷蔵庫の奥の方にしまっておいたの。

 

そして今日みち子ちゃんとここに来たあなたに、お父さんの事を一緒に聞いてもらったうえで、これを渡そうと決めたの。みち子ちゃんもここまで大きくなったし、、、、、。

 

あ、もうここまで話したから感づいていると思っているけど、お父さんが助けた赤ん坊ってみち子ちゃんの事よ。」よし子は野菜ジュースを注ぐ。

 

 

 

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。」みち子(本当は悪役)は下を向く。

 

 

 

「んぐっ!ぶふぉぉぉぉぉ!ゲホッ!ゲホッッッ!」たかしは突然の母の発言に驚き、飲んでいた野菜ジュースを吐き出していた。

 

 

 

「私が“はんぺん”の村から連れて来られたことは、数子さんから聞いていました。

私が世界の救世主になることも、、、、でも私には力が無くて、、、、どうしたらいいのか分からなくて仲間を探していたんです。そしたらたかしさんと出会いました。

たかしさんは“痛心誓言”を掛けられているのにとてもすごい魔法を使うんですよ。」みち子(本当は悪役)は不本意にもたかしの事を褒めた。

 

 

 

「そういえば親父も“痛心誓言”掛けられてて、それを解除したんだよな?いったいどうやって?」たかしはあわよくば自分の“痛心誓言”も解除しようとしていた。

 

 

 

「それは私にも分からないわ。ただおでん村には“痛心誓言”を解除する、“リミッター解除”の方法が隠されていると思うの。

それをたまたまお父さんは知っていて解除が出来たんじゃないかしら。この村に来た時にはすでに“技芽盛”だったわ。」よし子が話し終わると後ろの扉が開く。

 

 

 

 

ガラガラガラガラ!ピシャッ!

 

 

 

 

「なんじゃい、まだいたんかい。」村長はツンデレだった。

 

 

 

「村長。」たかしはロリコンだった。

 

 

 

「お嬢ちゃん、世界を救うにはたかしの力が必要か?」村長はみち子(本当は悪役)の目をしかとみて言う。

 

 

 

「それはもちろん。たかしさんは“零技芽”なのにすごい魔法が使えますから。

“リミッター解除”したら、たかしさんこそ救世主になると信じてます。」みち子(本当は悪役)は嘘も方便という言葉を知っていた。

 

 

 

「あー、たかしはそのままでええじゃろ。“リミッター解除”なんかしたら何するかわかったもんじゃない。」村長は笑いながら言う。

 

 

 

「おい!村長!この話を聞いたらさすがの俺でも世界征服なんかしないよ!」たかしも笑いながら言ってみせた。

 

 

 

「みち子ちゃん、、、、。」村長は初めてみち子(本当は悪役)の事を名前で呼んだ。

 

 

 

「、、、、、、、、はい。」みち子(本当は悪役)は固唾をのむ。

 

 

 

「みち子ちゃんにもたかしと同じ様に“痛心誓言”が掛けられておる。

それを掛けたのは、、、、ワシなんじゃ。」

 

 

 

 

みち子(本当は悪役)は何言ってんだこいつと思わずにはいられなかった。

 

 

つづく