とよさとっこのこうかんにっき

我々が統治する豊里において、誰であろうとこの領域には踏み込むことは許さぬ。ウホウウホウホウホ

はんぺんちくわぶ戦争紀 ~第2話 友達の実家の電話番号はなぜか覚えている~

「たかし! ほら、たかし!いいかげんおきなさい!!」

「うるせえ!ババア!俺に指図すんじゃねえ!」

「あんた誰のおかげでご飯食べられてると思ってんの!

おかあさんね、前から言おうと思ってたんだけど、あんたは感謝の気持ちが足りなすぎるよ!! もっと周りの人に感謝しなさい!」

「うるせえ!ババア!俺に指図すんじゃねえ!」

「もう、なんなのあんた… あんたもう今年で39歳でしょ。いい加減にしてよ。。お母さんもう疲れたよ…」

うなだれた表情でよし子は部屋を出ていった。

その瞬間を見計らって、たかしは布団から飛びおき、窓から外に飛び出した。

たかしは裸足のまま、村を走りぬけ、急いでいつもの場所に向かった。

 

いつもの場所には、誰も来ておらず、たかしは安堵の息を吐いた。

 

「おそいぞ!」

後ろから肩をたたかれた。

 

虚をつかれたたかしはおしっこをもらした。

 

それは、それは、ものすごい量だった。

 

実は驚いて漏れてしまったおしっこはちょっとだけだった。

しかしたかしは「もういいや」とあきらめたのである。

昨日の夜に飲んだゲータレード2㍑の影響もあったのだろう。

 

それは、それは、ものすごい量だった。

 

「なにもらしてんのよ…」

 

みち子(本当は悪役)はため息をつきながら、あきれ顔でたかしをみつめていた。

 

「ごめんごめん、もういいかなって」

「よくないわよ。それで話ってなに? 私、あんたと違って暇じゃないんだけど」

「実はさ、ついに完成したんだよ。」

「なにがよ」

「”究極においしいだんご”が!」

「…」

「なんか言えよ」

「はあ…」

 

再び深いため息をついたみち子(本当は悪役)は、こちらには見向きもせずに、消えたのだった。

 

「ちぇ…なんだよ。」

たかしは手に持っていた”究極においしいだんご”を食べながら、とぼとぼと帰路へとついたのだった。

 

▼▼▼

 

この村では20歳を迎えると、儀式を行う風習がある。

それは村長が一人一人に眠る潜在能力を引き出すことで、魔法を使えるようにするのである。

使える魔法は、家系による遺伝と本人の性格などによって変化する。

例えば、侍の家系のわたるは手を剣のように鋭くすることができる。一方、商人の次男坊であるよしふみは爪垢を金に変えることができた。

 

儀式が行われる日はお祭りのようににぎやかになり、村の住民全員でもりあがるイベントである。

その儀式は深夜から行われ、一人一人、村長がいるテントへと入って行われた。

 

当時のたかしはとてもワクワクしていた。

ついに魔法が使える。

勉強も運動もできずに嫌いだったたかしは、魔法が使えるようになるということを心の支えに今まで生きてきたのである。

その夢がかなう瞬間がついに来たと思うと、たかしはいてもたってもいられない気持ちだった。

 

 

たかしの番がきて、村長がまつテントへと入った。

そこは一人で胡坐をかいて座っている村長がいるだけの空間だった。

 

「まあ座れ」

しがれた声で村長はたかしに言った。

村長に言われた通り、たかしは座って村長を見つめ、早くといわんばかりに鼻息を荒くした。

「そう慌てんな。 おめーは魔法を使えるようになって、どうしたい?」

「世界征服!」

(こいつは馬鹿だ)

そう思った村長は、従来の遺伝と性格による魔法付与を避け、危険思想を持つものだけに与える特別処置として”毛をだんごに変える”力を与えた。

 

たかしはショックを受けた。

たかしの家はもともと相撲取りの家系ということもあり、「どんな魔法が与えられるのか」という話題で村でも注目の的だった。

それが蓋をあけてみたらびっくり、毛をだんごに変える力だったのだ。

 

村の人は、そんなたかしを不憫に思い、次第に距離を置き始めた。

たかしも村にいるのが恥ずかしくなり、家から出る回数もどんどん減っていった。

 

そんなたかしに転機がおとずれたのが、そこから15年後、たかしが35歳のときである。

母のよし子に買い物をたのまれ、隣の村まで出かけたときのこと。

村のチンピラにからまれ、ぼこぼこになっていたところ、瞬間移動で目の前に誰かが来て、助けてくれたのである。

 

みち子(本当は悪役)との出会いである。

 

つづく